北風ブログ-730

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2023/1/13 更新

2023年

私の勤務している病院が発行している新聞に以下のような新年の挨拶を寄稿しました。私たち医療関係者が、社会とどのような関係を保てばいいのか考えてみました。ご一読いただけますと幸いです。

私たちの新病院は昨年の6月に無事船出し、皆さんのご尽力で順調に航行を進めております。今年はそのスピードを上げて、トップギアで未知の海に突き進んでいきたいと思います。皆様、一致団結して頑張っていきましょう。
先日、何気なくテレビを見ていると、ある大学教授が「私たちは“社会規範”と“市場規範”という一見相反する“規範”のうえで行動している」とお話をされていました。“社会規範”とは、ボランティア活動・慈善事業など人の社会行為に対する規範であり、“市場規範”は、個人や法人の市場活動での取引に関わる規範です。私、これを聞いて、日ごろもやもやしていた目の前の霧が晴れる思いがしました。私たちで言うなら、私たちが病院において病気に苦しむ人たちの救済となり、日本の疾病予防・撲滅のために働くことが“社会規範”であり、病院のために外来・病棟の患者さんの確保および増加・ベッド占有率・回転率向上を目指すのが“市場規範”です。私たちは、社会人としてこの両方を満足させないといけないというわけです。
 さらに私たちにはもう一つの規範、つまり“個人規範”というようなものがあると思います。われわれ個人の生き方の問題です。それは、いかに「清く、正しく、美しく、そして楽しく」生きていくかということです。そこには、「人徳に裏打ちされた、強く正しい意志のもとに、良好なコミュニュケーションを図っていけるか」という尺度が入ります。
個人としての生き方である“個人規範”、病院としての“社会規範”と“市場規範”というこの3つの異質なベクトルを有する“規範”を併せ持たなければいけないのが、われわれ医療関係者です。今年は、これらの3次元の合成ベクトルからこの3つの規範を満足させる解を得て、それをいかに病院に生かしていくのか、じっくりと考えて素早く実行に移したいと思います。  
この“個人規範”“社会規範”“市場規範”の間の関係性にはとても悩むところです。会社が繫栄すればするほど、ビジネスオポチュニティが増えその結果、その会社の属する会社員の給料が増えますが、私たちは病気の方々をより減らそうとし、その結果病気の人が減れば、社会にとっては好ましいことですが、病院の収益は上がらず極端な話、自分たちの給料は減るわけです。病院の収益が上がるということは、病気の人が増えているということで、それは私たちの望むことではないからです。“個人規範”“社会規範”“市場規範”の両立ならぬ三立は、医療関係者の永遠の課題かと思います。
先日散歩していると、あるお寺の入り口に張り紙があり、そこには次のような文言が書かれていました。「意志(いし)が濁ると、意地(いじ)になり、口(くち)が濁ると、愚痴(ぐち)になり、徳(とく)も濁れば、毒(どく)となる。」と。Too much is as bad as too little(過ぎたるは及ばざるがごとし)です。“個人規範”“社会規範”“市場規範”のどれかを極端に追い求めてはいけないということで、その点での自戒・自重が大切ですね。

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